新園舎建築工事で考えたこと(その2)
過 程
「建築家選び」
1999年春に新園舎建築計画がスタートしました。コンセプトは、「家・自然・3E」。まず、このコンセプトを理解していただけそうな建築家に十数人会いました。その中には世界的に有名な方もいます。こちらは、「変なこという施主だな〜?」と思われないかとひやひやしながら話すのですが、幸いなことにどの建築家の方も「おもしろい! やってみたい!」というお返事ばかりでした。お会いした建築家を6人に絞り、コンペ(競技設計)のようなものを開き、人柄、センス、考え方等を基準に全職員で評価をさせていただきました。結果、全員一致で石井良平建築研究所の石井良平氏にお願いすることになりました。石井さんは以前大手設計事務所におられ、小学校や大学、図書館や子ども博物館等のプロジェクトに参画され、独立してからは個人邸を多く手掛けられています。幼稚園の設計は今回が初めてです。理事の中には一抹の不安を持つ方もおられましたが、この建築に関する趣旨からすると適任だと考えました。結果は見ていただけたら分ると思います。
「注文 と アイデア」
石井良平建築研究所に対して、「家・自然・3E」のコンセプトを基にした多くのアイデアと希望事項をお願いしました。そのいくつかを掲載します。これまでの幼稚園建築にはなかったと思われることもたくさんあります。これらをいかに図面化していくか・・・大変御苦労されたと思います。
園 舎・園舎ではなく、家(おうち)を建てて欲しい ・体に優しい自然素材をできるだけ使用 ・環状(既存園舎→森の遊具→新園舎→既存園舎)の動線を確保 ・既存園舎から新園舎につながる橋からイチョウに触れるようにして欲しい ・解体した旧園舎デッキ部分の雰囲気を再現する ・具象的な形は使用しない(明らかにそれとわかる具体的な形を使わず、見方によって色々に想像できる形を使う) ・雨でも遊べる場所の確保(ピロティ) ・聴覚遊具を仕組む ・ドアは重ねておもしろいモノにする
保育室・オープンスペース ・移動家具 ・移動間仕切り ・各部屋に巣(隠れ家スペース)を作る ・各部屋の天井に強度のあるフックをつける
屋内遊具「家具の森」(後述)・家具の上を歩き回れる(環状、グルグルと樹間を遊び回るリスやサルのように…) ・この「家具の森」を通って3クラスを行き来できる ・途中には20名ほどの子どもが集れる場所をつくる ・隠れ家をつくる ・視点の違いを出す(高さの違う場所をいっぱい作る) ・六甲山を眺望できるスペースをつくる
屋外遊具「森の遊具」(後述)・森の中にある遊具、森を楽しむ遊具、森に触れる遊具 ・アエルの森にある木(けやき、やまぼうし、うりはだかえで等)も植え、幼稚園とアエルの森をつなぐ ・できるだけ多くの視点が異なるスペースをつくる ・四季を通してひとつの木を色々な高さや角度から見・触ることができる ・集えるスペースをつくる ・多少の雨でも遊べるスペースの確保
「屋内遊具 家具の森」
今回のメインになるのは、屋内遊具「家具の森」です。子ども達が保育室にある家具の上を歩き回り、よそのクラスに遊びに行ったり、小さなスペースで戯れたり、時には大きな窓から遠くの山をぼっ〜と眺める。考えただけでも楽しくなりませんか?
この屋内遊具「家具の森」を考えたきっかけは、2つあります。1つめは、二十年以上も前になります。ある幼児体育の先生のサーキット遊びを見学した時の事です。サーキット遊びとは、色々なコースにおかれたマットや平均台、はしごや跳び箱を順番にこなして行く遊びです。その先生は、なんと、園庭に面して置いてある靴箱の上や倉庫の中にある棚板の上にはしごを掛け、その上を子ども達が歩けるようにしたのです! 日頃歩くことの出来ないところを歩く楽しさも相まって、子ども達は大喜び。2つめは、ドイツの幼稚園で実習をした時です。そこの園は、各部屋に「中2階」の部屋がありました。その「中2階」に興味を持ち、色々と質問したところ、紹介してくれたのが「RAUM FUR KINDER(子どもの空間)」という「中2階」の設計の専門書でした。ドイツで作られた「中2階」の写真と説明が一杯です。いつか豊中文化幼稚園にもこのような楽しくわくわくできるような空間を作りたい!と思っていました。こんなことが重なり今回の屋内遊具「家具の森」ができあがりました。たくさんの登り口、大人が通れるか通れないかギリギリの通路(体の大きな人は本当に通れません)、10人ほどが集まって戯れるスペース、五月山や六甲山・飛行場を眺めることのできる窓、迷路のような梯子、このような仕掛けの中で、樹間を走り回るリスやサルのように遊ぶ子ども達。体重制限はありません(園長先生でも大丈夫)。新園舎の基礎は、今回の「家具の森」の設計に合わせて計算されています。是非一度子どもになって「家具の森」を探索して下さい。新しい何かが見えるかもしれませんよ!
「小さな森 と 森の遊具」
1つめの目的は、幼稚園のキャンプ場にあるアエルの森と幼稚園をつなぐ中間地点をつくること。園舎には、内部と外部をつなぐ半外部としてのデッキがあります。園庭にも、幼稚園とアエルの森をつなぐ半自然な空間が必要だろうと考えました。新園舎の前は、芝生を敷き「ナンキンハゼ」を植えています。これはアエルキャンプ場にある芝生の広場と同じ環境です。森の中には、アエルの森にもある「けやき」や「やまぼうし」を植栽しています。「うりはだかえで」はアエルの森から移植しました。これらの木々を日々見ることによって、野外活動やキャンプでアエルの森に行った時に「あっ、幼稚園と同じ木や!」とか、帰ってきてから「アエルの森は今頃どうなっているかな〜」と思ってもらえたらと考えています。2つめの目的は、四季を通じてひとつの木を様々な角度から見るということです。今回の遊具はあえて通路を段々にしています。木を見る高さも変われば角度も変わります。これを思いついたのは、数年前に見たテレビ番組がきっかけでした。内容は、生態学者が森林を調査する時に、樹間にロープで通路を作り、植層の高い所にいる昆虫の生態を観察するというものでした。とても高い木々の間に沢山のロープが張られ、そこを歩いて移動する様は壮観です。また、木々を上から眺めるのもとても新鮮なことでした。今回の規模は到底そこまでいきませんが、少しでもそんな経験をしてくれたらと考えています。3つめは、森の中で思いっきり遊んで欲しいということです。広さは決して十分とは思いませんが、木漏れ日の中、色々な木々の匂いの中、様々な色の葉っぱの下で思い思いの遊びを楽しむことができたら、幼児期の大切な記憶になるのではないかと考えます。
さいごに(はじめに)
この建築は、これで完成ではありません。終わりでもありません。始まりです。新しい豊中文化幼稚園の保育を考える始まりです。建築は人が使ってこそ建築として成立するはずです。建築雑誌で見る竣工写真のおもしろくないこと。そこにはほとんどの場合人がいません。生活が見えません。匂いも感じません。これからこの大きな家で子ども達が遊び始めます。新しい生活が始まります。様々な音もするでしょう。様々な匂いもするでしょう。これからが本当の建築です。保育の建築です。新しい園舎を使い、新しい遊具を使い、どんな保育が展開できるのかとても楽しみです。「新園舎」も「既存園舎」も、「家具の森」も「森の遊具」もこれからスタートです。

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